01Short Story

【特典SS】『迷宮見廻組の楽しい社会見学』
Title

【特典SS】『迷宮見廻組の楽しい社会見学』

 病室のベッドの上でノートパソコンを抱きかかえて、動画の再生ボタンを押すと、見知った二人が映りました。
「ドモー、あんまるでっす☆」
「加藤段蔵だ。二人で迷宮見廻組だ。今日は迷宮の外で動画を撮影している」
「というわけで、本日は――じゃん! なんと! 静岡県は御前崎市にある臨海龍仙発電寺(りんかいりゅうせんはつでんじ)に来ております!」
 迷宮見廻組の二人です。しかし、ダイバー衣装ではなく作務衣(さむえ)で、しかも頭には『安全第一』と書かれた黄色いヘルメットを被っています。
 画面の下部に『臨海龍仙発電寺』とテロップが入りました。ぱちぱちと二人で拍手をして、盛り上げようとしています。……段蔵は拍手の音が鋭利ですね。
「ここは、いわゆるダンジョンコア発電をおこなっている発電所兼寺院だ」
 段蔵が背後を手で示します。無機質なコンクリート製の建物やタンクやダクトと、巨大な木造の寺院や朱塗りの鳥居が入り混じった、なんとも不思議な光景が広がっています。
「舞浜の遊園地四つ分の広さがあるらしい。今回、ダンジョン公社からダンジョンコア関連技術の認知度向上の依頼を受け、見学をさせてもらえることになった。迷宮炉がどんなものか、個人的にも気になっていたから、非常に楽しみだ」
「すっごい真顔だけどねー、段蔵くん。でも普段よりちょっとだけテンション高いよね」
「男子はこういう施設見学が好きなんだ」
 事実でしょう。いつも通りのクールな表情ですが、口数が多いですからね。……と、二人の横に、僧衣を着用し、頭に安全ヘルメットを被った禿頭の男性が現れました。
「こちらは案内の鹿松さんです」
「どうも、臨海龍仙発電寺の広報僧を務めております、鹿松です」
 鹿松さんが合掌して一礼しました。画面下部に『広報僧 鹿松さん』とテロップが出ます。
「本日はお二人の見学の案内を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。早速ですが、まずはダンジョンコア保管庫にご案内します」

 場面が切り替わって、三人は薄暗い室内に移動しました。工場の倉庫のような場所です。ずらりと並んだコンテナの中に、大量の光り輝く粉が詰め込まれています。
「ダイバーの皆さんが回収したダンジョンコアは、こうして均質な粉状に加工され、木粉と混ぜ合わせた上で、保存されています。飛散を防ぐため、定期的に散水しているんですよ」
「わ、すっごく綺麗! キラキラしてんじゃん☆」
「凄い量だな。ダンジョンいくつ分だろうか」
「ダンジョンによってコアの大きさが違うのと、木粉を混合しているため概算ですが、コンテナ一つにつきダンジョンコアが百個ほどでしょうか。大半が木粉ですね。これを圧縮加工して、護摩木燃料棒(ごまぎねんりょうぼう)にするんですよ」
「ゴマギってなんですか?」
「護摩行で焚き上げる木札のことです。では、実際の儀式の様子を見てみましょう」

 また場面が切り替わりました。今度は金属製の巨大な火炉と、それを取り囲む朱塗りの木製構造物です。鳥居や祭壇がいくつも並び、紙垂(しで)や御幣(ごへい)、丸い摩尼車(まにぐるま)なども映し出されています。
「ここが不動護摩発電堂(ふどうごまはつでんどう)――いわゆる密教式迷宮炉と言われるものになります。先ほど言った、護摩木燃料棒に発電祈願の梵字を記して焚き上げています」
 鹿松さんが声を張って説明をしています。それもそのはず、イヤホン越しにごうんごうんと何かの機械が動く音と、それに負けないくらい大声の読経も聞こえてきます。不動護摩発電堂の周囲には、法衣を纏った僧侶達がずらりと座禅を組んで座り、汗だくで一心不乱にお経を唱えているのですから。……なんというか、凄い光景です。
「護摩行を介して炉内に奉じた護摩木燃料棒を迦楼羅焔(かるらえん)に変換、その熱でボイラーのお湯を沸かしてタービンを回し、発電しています」
 あんまるさんが「サウナ店?」とあり得ない聞き間違いをしていますが、テロップできちんと『迦楼羅焔 不動明王の背後にある炎のこと。不浄と煩悩を焼く。』と解説が入りました。

 次に、三人はタービンの見学に向かいました。タービンは横向きの巨大な円筒で、中にいくつもの羽根車があるそうです。ボイラーで沸いたお湯がこちらのタービンを回転させて発電するのだとか。これまた轟音を立てて回転するタービン発電機を遠巻きに見ながら、鹿松さんが二人に解説を続けます。
「一分間で3,000回転しているんですよ」
「この大きなタービンが、一秒あたり50回も……?」
「凄いな。巻き込まれたらひとたまりもないだろう」
「いや怖いこと言うなし。……あのー、一個質問なんですけど! どうして密教式の迷宮炉を使っているんですか? 世界基準じゃないですよね?」
「はい、日本独自の術式系統だからこそ、ですね。西洋式ですと、場合によっては海外から魔導士を招かないと運営できませんので。逆に、日本の密教式発電の技術を輸出していこう、という政府方針もあって、密教式は研究が進められているんです」
「密教式って、他の方式と比べて、どこが凄いんですかー?」
 あんまるさんの質問が、少しわざとらしいですね。台本があるのでしょう。
「他の諸方式と比べると、熱変換効率が良くロスが少ないのが利点です。ただ、多くの祈祷僧による長期の術式維持を必要とすること、儀式場や道具の整備から祈祷、機材の操作まで全て僧職でなければならないことなどから、人材確保と育成のコストの高さが欠点と言われています」
「ダンジョンコアを直接電力に変えることはできないのか? わざわざお湯を沸かしてタービンを回すのは、非効率的に思えるが」
 段蔵のこの質問も台本でしょうね。
「あはは、そう思いますよね。けど、結局、これが一番なんですよ。あらゆるエネルギーを回転に変換できて、回転は大規模化しやすく高効率で、さらに一定速度で回転するタービンは安定した周波数の交流電力を送電できるんです」
「……よくわかんないけど、便利ってことっすね!」
 あんまるさんが雑にまとめましたね。……ちなみに私もよく分かりませんが。

 最後に、オープニングを撮った屋外の広場に戻りました。
「いやー、面白かったね! 護摩発電堂の護摩行は大迫力だったし☆」
「ああ、面白かった。ダンジョンコア発電について、少しは詳しくなれたと思う。とてもたくさんの人が働いていることも知れた」
 鹿松さんが「ええ、ええ」と頷きました。
「当発電寺では、約一千名の僧侶が勤務しております。交替で護摩行をおこなう祈祷僧、整備などを担当する作業僧など、たくさんのお坊さんがいるんですよ。自動化できるところは電動摩尼車による高速読経も併用していますが、やはり人の手で維持管理し、運営しないといけないところがたくさんありますので」
 ……人手不足なんだろうなぁ、というやりとりが入りましたね。
「なるほどー。鹿松さん、本日はありがとうございました! 最後に一言お願いしまっす!」
「はい、ありがとうございました。ダンジョンコア発電は世界一クリーンな発電方法であると同時に、エネルギーの未来を支える発展途上の技術でもあります。拙僧達は共に未来に挑戦する仲間を待っております。この動画を見て興味を持っていただけたなら、とても嬉しいです」
「それでは、おつまる~☆」
「ではまた。迷宮見廻組がお送りした」
 ……そして、動画は終わりました。ふむ。なんと言いますか……。
「すっごく……シュールな……」
 ともあれ、今も日本の各地で、お坊さん達が汗だくで発電しているのだと思うと、エアコンの効いた快適な病室で入院している私は頭が上がりませんね。